はじめに

「ピロリ菌の除菌が成功しました」。そう伝えられて、ホッとされた方は多いと思います。同時に、「これで胃がんの心配はしなくてよいのだろうか」と考えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ピロリ菌の除菌によって胃がんが発生するリスクが確実に下がることは、すでに明らかになっています。ただし、リスクがゼロになるわけではないことも分かっており、除菌後も胃内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが大切だとされています[1]

では、除菌を終えたあと、自分でできることはあるのでしょうか。2026年、保険・健診データを使った大規模な研究が、この問いに一つのヒントを示しました。除菌に成功した約5万9千人を追跡し、生活習慣のうち胃がんの発生と関連していたものを調べた研究です。今回は、その内容をお伝えします。

結論:除菌後に見直せる要因として、「たばこ」がある

除菌に成功した59,274人を平均3.66年追跡したところ、除菌から5年間で胃がんが見つかった人は1.47%と推定された。

喫煙・飲酒・運動・食生活・睡眠など多くの生活習慣を調べたなかで、年齢と性別の影響を取り除いた場合、胃がんの発生と関連していたのは、喫煙だけだった(ハザード比1.37、95%信頼区間1.05〜1.78)。

たばこを吸い、かつ毎日お酒を飲む人では、どちらもしない人と比べて胃がんが見つかった割合が高かった(ハザード比1.80、95%信頼区間1.22〜2.66)。

図1 ピロリ菌の除菌後5年間に胃がんが見つかった人の割合(オリジナル作成)

除菌をしても、胃がんのリスクはゼロにならない

主たる胃がんの発生要因には、ピロリ菌の感染があり、その他にも喫煙や食塩・高塩分食品の摂取が知られています。

ピロリ菌の除菌によって、胃がんが発生するリスクは確実に低下します。ただし、除菌をしても胃がんになる可能性がゼロになるわけではありません。除菌をしても胃がんになる人は一定数いるため、除菌後も胃内視鏡検査を受けることが大切だとされています。

研究のアプローチ――約5万9千人を平均3.66年追跡

この研究は、2014年から2023年までの日本の健康保険のレセプト(診療報酬明細)と健診データを使った、後ろ向きコホート研究です。使われたデータベースは、大企業の健康保険組合、国民健康保険、後期高齢者医療制度の3つの制度をあわせた1,000万人以上をカバーしており、日本の人口のおよそ10%にあたります。

対象になったのは、2015年4月から2018年3月の間に、クラリスロマイシンという抗生物質を含む3種類の薬を7日間服用する除菌治療を受け、除菌に成功したと判断された人です。除菌の前に胃がんと診断された人や胃の切除を受けた人、追跡期間が1年未満の人は除かれています。また、除菌から1年以内に見つかった胃がんは「除菌の前からあった可能性が高い」と考えられるため、除外されています。追跡は、除菌薬を飲み始めてから1年後を起点としています。

生活習慣の情報は、健診の問診票から集められました。喫煙、飲酒の頻度と量、運動、歩行時間と歩く速さ、体重の変化、食べる速さ、就寝前の食事、夕食後の間食、甘い菓子、噛みにくさ、朝食を抜くこと、睡眠など、幅広い項目が調べられています。ただし、食事については「食べ方」の習慣は調べられているものの、食塩や野菜・果物をどれくらいとっているかという「食事の内容」は含まれていません。

除菌後に胃がんが見つかった人は、5年間で1.47%(推定)

最終的に59,274人が解析の対象となり、平均年齢は64.91歳、男性は44.55%(26,404人)でした。平均3.66年の追跡の間に、649人(1.44%)に胃がんが見つかっています[2]

胃がんが見つかった人の割合は、除菌から3年で0.89%、4年で1.17%、5年で1.47%と推定されました。これらの数値は、全員を5年間ちょうど追跡した実測値ではなく、追跡できた期間の情報をもとにした推定値(カプラン・マイヤー法による推定)です。1年あたりに直すと、10万人年あたり299.01件、およそ年0.3%になります。

言い方を変えれば、除菌に成功した人の98%以上では、5年のあいだに胃がんは見つかっていない、という推定でもあります。しかし、それでも一定の割合で胃がんは発生するため、胃内視鏡検査を続ける意味はあると言えるでしょう。

発生率が高かったのは、「男性」と「除菌したときの年齢が高い人」

胃がんが見つかった人の割合は、男女で差がありました。

表1 除菌後に胃がんが見つかった人の割合(推定):男女別

除菌後の年数3年4年5年
男性1.25%1.63%1.99%
女性0.60%0.79%0.93%

年齢で調整した解析でも、男性は女性に比べてハザード比2.26(95%信頼区間1.93〜2.66)と、胃がんが見つかりやすいという結果でした。

除菌を受けたときの年齢による違いも、はっきりしていました。5年時点で胃がんが見つかった人の割合は、40歳未満で0.15%、40〜50歳で0.4%、50〜60歳で0.99%、60〜70歳で1.43%、70歳以上で2.16%と推定され、除菌を受けた時の年齢が高くなるほど、胃がんが見つかる確率は上昇していました。

生活習慣のうち、胃がんとの関連が示されたのは喫煙だけだった

年齢と性別の影響を取り除いた上で解析した結果、統計的にはっきりした関連が示されたのは、喫煙だけでした[2]

表2 たばこ・お酒と、除菌後の胃がん発生との関連

胃がんが見つかった人ハザード比(95%信頼区間)p値
たばこ
現在吸っていない310人(0.91%)基準
現在吸っている75人(1.38%)1.37(1.05〜1.78)0.020
お酒
飲まない151人(0.76%)基準
時々飲む76人(0.89%)1.08(0.81〜1.44)0.587
毎日飲む123人(1.43%)1.29(0.99〜1.68)0.060

※ ハザード比は年齢・性別で調整した値です。ハザード比が1より大きいほど発生率が高い関係、1に近いほど差がないことを示します。95%信頼区間が1をまたぐ場合、統計的にはっきりした差とは言えません。

体格や運動、食べ方、睡眠など、問診票で調べられたその他の項目では、統計的にはっきりした関連は示されませんでした。ただし、これは「関連がないことが証明された」という意味ではありません。生活習慣の情報は、健診のときに本人が答えた内容です。例えば、たばこを吸っていても「吸っていない」と答えたり、お酒の量を実際より少なめに答えたりする可能性は否定できませんし、回答は一時点のもので、その後の変化までは反映されていません。こうしたずれがあると、本当は関連があっても、数字の上では差として現れにくくなります。また、項目によっては対象の人数が少なく、差があっても統計的に検出しにくいこともあります。

たばこに毎日のお酒が重なると、胃がんが見つかる割合が高かった

お酒は、単独では統計的にはっきりした関連が示されませんでした。ただし、たばこを吸う人に限ってみると、お酒が重なったときに関連がみられました。

図2 たばことお酒の組み合わせと、除菌後の胃がんの起こりやすさ(オリジナル作成)

たばこを吸わない人では、お酒を毎日飲んでいても、胃がんのリスクが高くなるとははっきり言えませんでした(ハザード比1.18、95%信頼区間0.87〜1.60)。一方、たばこを吸う人では、毎日お酒を飲む場合に、たばこもお酒もやらない人と比べて胃がんのリスクが高く、その差は統計的にもはっきりしていました(ハザード比1.80、95%信頼区間1.22〜2.66)。

この研究が伝えること

① 除菌の後も、検査を受けることが重要

除菌に成功しても、5年で1.47%、年およそ0.3%の割合で胃がんが見つかっています。確率は必ずしも高くはありませんが、念のため、除菌後も胃内視鏡検査を受けることが大切です

② 自分で見直せる要因として挙がったのは、たばこだった

年齢や性別、これまでの感染期間は、変えることができません。その中で、この研究が胃がんとの関連を示したたばこは、自分の意思で見直せる数少ない要因です。なお、たばこを吸う人では、そこに毎日の飲酒が重なると関連がさらに強く出ていました。お酒そのものは単独でははっきりした関連が示されませんでしたが、たばこを吸う方にとっては、飲酒を控えることも意味を持ちます。

③ 喫煙以外の生活習慣が無関係なわけではない

この研究で関連が示されたのは喫煙でしたが、がん全般の予防には、禁煙することの他に、飲酒を控えること、バランスのよい食事を摂ること、活発に身体を動かすこと、適正体重を維持すること、感染を予防することが有効であると分かっています。胃がんの予防においては、食塩や高塩分食品の取り過ぎに注意することも大切とされ、野菜や果物の摂取が効果的である可能性も報告されています[1]

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わたしの視点

私が皆さんにお伝えしたいことが3つあります。

1つ目は、ピロリ菌の検査についてです。この研究では、除菌を受けたときの年齢が高い人ほど、その後5年間で胃がんが見つかった割合が高くなっていました(40歳未満で0.15%、70歳以上で2.16%と推定)。年齢が高いこと自体が胃がんの発症リスクになるため、この結果がすべて「感染していた期間の長さによるもの」とは言えません。ただ、この差については、長く続いたピロリ菌の感染が胃の粘膜に萎縮などを生じさせ、それが除菌後も消えずに残った結果である可能性があると、この研究は伝えています[2]。そのため、まだピロリ菌の検査を受けたことがない方は、早めに調べておくことをおすすめします。感染が分かれば除菌ができますし、早く手を打つほど、胃へのダメージが積み重なるのを抑えることができます。

2つ目は、たばことお酒についてです。この研究で、生活習慣に関して胃がんの発症との関連が最も強かったのは、たばこを吸い、かつ毎日お酒を飲む人でした。バランスのよい食事や適度な運動、適正体重を保つことは、これまで通り大切にして頂きたいと思います。その上で、現在たばこを吸っている方は、この研究で関連が示されたのがたばこだったこと、そこにお酒が重なると関連がさらに強かったことを知っておいて頂ければと思います。なお、この研究では、たばこを「吸う・吸わない」の2つに分けており、本数までは調べていません。このため、本数と胃がんの起こりやすさの関係までは分かりません。禁煙は1人で頑張るものと思われがちですが、禁煙外来を行なっているクリニックや薬局でも相談できます。是非、かかりつけの医師や薬剤師に声をかけて頂ければと思います。

3つ目は、食塩についてです。この研究で調べられた食事の項目は、食べる速さや間食といった「食習慣」で、食塩をどれくらい摂っているかは含まれていません。そのため、除菌後の胃がんと食塩との関係についても、この研究からは分かりません。ただし、食塩を多く摂ることで胃がんのリスクが増加することは、男女ともにほぼ確実とされています[3]。また、減塩は高血圧や脳卒中、心臓病の予防につながることがよく知られています。食塩摂取量の目標は、成人1日あたり男性7.5g未満、女性6.5g未満です[3]。食生活において、減塩は意識しておきたいことです。

まとめ

  • 日本の保険・健診データを使った研究で、ピロリ菌の除菌に成功した59,274人を平均3.66年追跡したところ、除菌から5年間で胃がんが見つかった人は1.47%(年およそ0.3%)と推定された。
  • 男性、そして除菌を受けたときの年齢が高い人ほど、胃がんが見つかった割合が高かった。除菌から5年が経った時点で胃がんが見つかった人の割合は、男性1.99%・女性0.93%、除菌時の年齢が70歳以上では2.16%と推定された。
  • 喫煙・飲酒・運動・食生活・睡眠など多くの生活習慣のうち、関連が示されたのは喫煙だけだった。たばこを吸い、かつ毎日お酒を飲む人では、どちらもしない人と比べて胃がんが見つかった割合が高かった。
  • 除菌はリスクを確実に下げるが、ゼロにはならない。胃内視鏡検査を受けること、そしてたばことお酒を見直すことが、除菌後も自分でできることと言える。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。除菌を受けられた方が、その後も自分にできることを考える参考になれば幸いです。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス. 胃がん 予防・検診(更新・確認日:2026年1月13日). https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/prevention_screening.html
  2. Arai J, Niikura R, Hayakawa Y, Fujiwara H, Fujishiro M, Kasuga M. Gastric cancer incidence after Helicobacter pylori eradication and lifestyle-related risk factors: a population-based cohort study. Helicobacter. 2026;31:e70138. doi:10.1111/hel.70138
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス. 科学的根拠に基づくがん予防法(更新・確認日:2026年7月14日). https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html

※ 本記事は、信頼できる一次情報源に基づき、医学・薬学の視点から解説したものです。実際の検査や治療については、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。

執筆:Miyarun(薬剤師・医学修士)
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