はじめに

膀胱がんと診断され、BCG(ビーシージー)の膀胱内注入療法を受けてこられた患者さん、そしてご家族の方々にとって、「BCG治療を続けてきたけれど、それでもがんが残ってしまった」「再発してしまった」と告げられたときの落胆と不安は、想像にあまりあります。

これまで、現実的な治療の選択肢は、膀胱全摘術(膀胱をすべて取り除く手術)か臨床試験に絞られていました。

2026年5月、フェリング・ファーマ株式会社が、「エドスチラドリン®膀胱内注入液(ナドファラゲン フィラデノベク)」 という新しい遺伝子治療の製造販売承認を、5月8日付で取得しました[1]。BCG治療を行なっても残存・再発した患者さんに、膀胱を残せる選択肢が増えた、というお話です。


結論:BCG治療を行なって残存・再発した場合でも、膀胱を残せる可能性のある新しい選択肢が広がる

エドスチラドリン®膀胱内注入液は、BCG治療後に再発・残存した上皮内がん(CIS)を伴う高リスクの筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)の方を対象に、日本で初めて承認された膀胱温存の遺伝子治療です。

日本人を対象とした第3相試験で、3か月後に75%の方でがんが完全に消失(完全奏効)し、12か月後にも68%の方が膀胱を残せていたと報告されています[1]重い副作用(グレード3以上)は0件、治療中止例もありませんでした[1]


言葉の説明:高リスクNMIBC、上皮内がん(CIS)、BCG不応性とは

高リスク筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)

膀胱がんは、 筋層非浸潤性(NMIBC、膀胱の表層にとどまる段階)筋層浸潤性(筋肉の層まで広がったもの) の2つに大きく分かれます。新しく見つかる膀胱がんの 約75%がNMIBC[1][2]、その中でも再発・進行のリスクが高い「高リスク」群では慎重な治療選択が必要です。

上皮内がん(CIS)

「Carcinoma In Situ」の略で CIS(シー・アイ・エス)と言います。膀胱の粘膜に 平らに 広がるタイプで、コブを作りにくく検査でも見つけにくいことに加え、進行しやすく 「高リスク」のNMIBC に分類されます。

BCG不応性とは

高リスクNMIBCに対しては、長年 BCG膀胱内注入療法 が標準治療でした(BCG治療の詳細はこちらをご参照ください)。BCGの初期治療を受けた方の 50%以上が1年以内に再発・進行を経験 するとされ、その多くが「BCG不応性」――BCG治療を受けても がんが消えない/再発した 状態――に該当します[1]


エドスチラドリンとは何か――「膀胱の細胞を、抗がん物質をつくる工場にする」遺伝子治療

エドスチラドリン®膀胱内注入液(一般名 ナドファラゲン フィラデノベク)の仕組みは以下の通りです。

  1. 増殖能力を取り除いた「非複製型」アデノウイルス を運び屋として使う(体内で増えないので感染を広げる心配はない)
  2. その運び屋に、本来私たちの体ががんやウイルスと戦うためにつくっているたんぱく質 「インターフェロンα-2b(IFNα2b)」の設計図(遺伝子) を搭載させる
  3. 3か月に1回、カテーテルを使って膀胱内に直接注入する
  4. 運び屋が膀胱壁の細胞に入り、 細胞自身がIFNα2bをつくり続ける「小さな工場」 に変わる。局所で持続的に放出されるIFNが、膀胱内に残るがん細胞を多面的に攻撃する
図 エドスチラドリンの仕組みと、日本人を対象とした第3相試験の主な結果(オリジナル作成)

研究のアプローチ:日本人を対象とした第3相試験の概要

国内25施設で実施された日本人対象の第3相試験。対象はBCG不応性のNMIBCのうち、CISを伴う(高グレードTa/T1乳頭状病変併発の有無を問わない)20名の患者さん。エドスチラドリンを3か月に1回、膀胱内に注入しました。

有効性

評価項目結果
3か月時点の完全奏効率(CR:がんが完全に消えた状態)75%(15名/20名)[1][3]
12か月時点の膀胱温存率68%[1]

安全性(3か月時点、JUA 2025)

重症度内容発生件数
グレード1(軽度)治療を続けながら対応できる程度64件(15名、薬剤関連有害事象全体の84.2%)
グレード2(中等度)何らかの追加対応が必要、入院は要しない12件(5名、薬剤関連有害事象全体の15.8%)
グレード3(重度)入院や強い対応が必要0件
グレード4(生命を脅かす)集中治療を要する0件
グレード5(死亡)治療関連の死亡0件
治療中止例副作用などで治療を続けられなくなった例0件

薬剤関連有害事象は20名中16名(80%)に計76件発生し、すべてがグレード1または2で、グレード3以上および治療中止例はありませんでした。なお、12か月の追跡データでも、グレード3以上の薬剤関連有害事象は認められず、治療中止例もありませんでした[1]


この発見が伝えること

  • 膀胱を残せる可能性のある治療の選択肢が、日本で初めて承認された――BCG不応性かつCISを伴うNMIBCに対する 膀胱全摘術や臨床試験以外の現実的な選択肢 が承認されたのは、日本で初めてのことです。
  • 「3か月に1回」の投与スケジュールで通院の負担が比較的軽く、重い副作用も現状ではなし――エドスチラドリンは3か月に1回の膀胱内注入で投与され、12か月時点まで グレード3以上の薬剤関連有害事象も治療中止例も0件 でした。
  • 早期発見の前提は変わらない――この治療を選べるのは「NMIBCの段階で見つかっていること」が前提です。膀胱の壁の深くまで広がってしまえば、別の治療が必要になります。

わたしの視点

自分が患者さんの立場だったら

わたしがBCG治療のあとに「がんが残っている/再発している」と告げられた立場だったら、 「全摘以外の選択肢があるのなら、まず試したい」 と感じるだろうと思います。膀胱は毎日意識せずに使っている、生活に深く根ざした臓器。これを摘出して尿路の通り道を作り直す(お腹に尿の出口を作る、または腸で新しい袋を作って元の尿道から排尿する)ことは、体や日常生活への影響が少なくなく、本人やご家族に大きな決断を強いることになってしまいます。

薬剤師として気になる2つのこと

①「再導入の適応とならない患者に限る」の意味――エドスチラドリンの効能・効果には「BCG膀胱内注入療法の再導入の適応とならない患者に限る」という限定があります。これは BCG治療をもう一度やり直す選択肢が、医学的に取れないと判断された患者さん が対象という意味だと考えられます。エドスチラドリンを使用できるか否かは 主治医(泌尿器科専門医)の総合的な判断 によります。そこで、こちらから「自分はこの薬の対象になるのか」を率直に尋ねてよいと思います。

② 流通の特殊性――エドスチラドリンは 高度な温度管理を含む厳格な流通体制 が求められ、日本国内ではアルフレッサグループのエス・エム・ディ株式会社を通じた流通になります[1]。このため、 取り扱える医療機関は限られる可能性がある と思われます。 「自分の地域の病院でこの治療を受けられるのか」 をご家族と相談していただければと思います。

早期発見できたからこそ、選べる選択肢

エドスチラドリンが選べるのは、 NMIBCの段階で膀胱がんが見つかっているからこそ です。膀胱がんの発見の契機となる主な症状は 肉眼的血尿(赤い尿) と頻尿・残尿感などの膀胱刺激症状で、特に肉眼的血尿は 40歳以上の膀胱がん患者さんの64% に認められたとの報告があります[2]一度でも肉眼で見える血尿があったら、泌尿器科を受診してください ――今日からできる、誰にでもできる行動として、お伝えしたいことです。


まとめ

  • 2026年5月8日、 エドスチラドリン®膀胱内注入液(ナドファラゲン フィラデノベク) が、BCG不応性で上皮内がん(CIS)を伴う高リスクNMIBCを対象に日本で製造販売承認を取得した。BCG不応性かつCISを伴うNMIBCに対する 膀胱全摘術や臨床試験以外の選択肢として、日本で初めて承認された遺伝子治療 で、 3か月に1回の膀胱内注入 を行う。
  • 作用機序:非複製型アデノウイルスを運び屋に、膀胱壁の細胞をIFNα2bを一時的に産生する「小さな工場」に変える。
  • 日本人第3相試験(CISを伴う20名の患者さん):3か月CR率75%(15/20)、12か月膀胱温存率68%。薬剤関連有害事象はすべてグレード1または2、 グレード3以上・治療中止は0件
  • 注意点として、試験コホートは20名と小規模で、長期データは今後の蓄積を待つ必要がある。また、承認対象は 「BCG再導入の適応とならない患者」に限定

これまで、BCG治療後にがんが残った/再発した方には、 膀胱全摘術または臨床試験への参加 が推奨されてきました[1]。エドスチラドリンの承認により、この選択肢に 膀胱を残しながら治療を続けられる道 が加わりました。今回のお話が、主治医との対話のきっかけになれば幸いです。実際の治療選択は、必ず主治医(泌尿器科専門医)とご相談のうえ決定してください。


参考文献

  1. フェリング・ファーマ株式会社. フェリング・ファーマ、エドスチラドリン®膀胱内注入液(ナドファラゲン フィラデノベク)の日本における製造販売承認を取得、BCG治療後の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん患者さんに、膀胱温存という新たな選択肢を提供. Media Release. 2026年5月11日. https://www.ferring.co.jp/wp-content/uploads/sites/32/2026/05/20260511_pressrelease.pdf
  2. 日本泌尿器科学会. 膀胱癌診療ガイドライン 2019年版[増補版]. 医学図書出版; 2023年8月. https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/39_bladder_cancer_2019_v2.pdf
  3. Ferring Pharmaceuticals. Ferring Announces Initial Data from Phase 3 Trial in Japanese Patients Demonstrating 75% Complete Response Rate at 3 Months with (nadofaragene firadenovec) in BCG-unresponsive NMIBC Patients. Media Release. April 21, 2025. https://www.ferring.com/ferring-announces-initial-data-from-phase-3-trial-in-japanese-patients-demonstrating-75-complete-response-rate-at-3-months-with-nadofaragene-firadenovec-in-bcg-unresponsive-nmibc-patients/

執筆:Miyarun(薬剤師・医学修士)
Medical Compass:最新治療と健康のナビゲーター