はじめに

「お酒はほどほどに」「太りすぎないように」。健康診断やテレビ番組などで、一度は耳にしたことのある言葉だと思います。

がんという病気は、生まれ持った体質のように、自分ではどうにもできない部分があります。一方で、毎日の生活習慣の中には、見直すことによって、がんになるリスクを下げることができる部分があります。実際、日本人のがんの要因のうち、生活習慣などの「見直せるもの」が占める割合は、男性で43.4%、女性で25.3%と推計されています[1]

2026年6月3日、国立がん研究センターが、この「自分で見直せる部分」をまとめた予防法を更新しました。今回は、その内容を、できるだけやさしくお伝えします。「何かを我慢させられる話」ではなく、「自分で選択できる行動の目安が、より確かになった話」として読んでいただけたらと思います。

結論:見直されたのは「お酒」と「体重」の目安

今回の見直しの中心は、次の2点です。

① お酒:これまでの「節酒する(ほどほどに)」から、「飲酒をひかえる」へ。
② 体重:男性のBMI(体格の指標)の推奨上限を、27から25に引き下げ。男女ともBMI21〜25の範囲が目安に。

どちらも、日本人を対象とした最新の研究で、「お酒は少量でもがんのリスクが上がること」「体重(BMI)が高くなるほどリスクが上がるがんがあること」が示されたことを受けた変更です[2]。残りの要因(たばこ・食生活・身体活動・感染)の推奨は、これまでと変わりません。

図 今回見直された「がん予防法5+1」のポイント(オリジナル作成)

「5+1」とは――5つの生活習慣と感染対策でがんを遠ざける

「科学的根拠に基づくがん予防法5+1」は、日本人を対象とした研究をもとに、「実践するとがんになるリスクを減らせる」と考えられる生活習慣を整理したものです。名前の「5+1」は、生活習慣に関わる5つ(たばこ・お酒・食生活・身体活動・体重)に、感染という1つを加えた、合わせて6つ、という意味です。

それぞれの推奨は、次のとおりです。

表1 「がん予防法5+1」の6つの要素と推奨

要素推奨されること
たばこたばこは吸わない/他人のたばこの煙を避ける
お酒飲酒をひかえる
食生活減塩する/野菜と果物をとる/熱い飲み物・食べ物は冷ましてからとる
身体活動日常生活を活動的に過ごす
体重体重(BMI)を適切な範囲内にする
感染(+1)検査や予防接種を受ける

実際に、5つの生活習慣(たばこ・お酒・食生活・身体活動・体重)に気をつけている人は、ほとんど実践していない人と比べて、将来がんになるリスクが男性で43%、女性で37%低いと推計されています[1]。一つひとつの取り組みにも意味があり、組み合わせるほど効果は大きくなります。

見直し①:お酒は「ひかえる」へ

これまで「節酒する」だった推奨が、「飲酒をひかえる」に変わりました[2]。背景には、少量の飲酒でもがんのリスクが上がることが示され、がん予防の観点では、“ほどほど”より“飲まない”方がよい、という考え方に変わってきています。

具体的には、飲酒によって、肝がん・食道がん・大腸がん・頭頸部がんのリスクは確実に高くなり、男性の胃がんや女性の閉経前の乳がんも、ほぼ確実に高くなることが分かっています[1]

量との関係もはっきりしています。日本人男性を対象とした研究では、1日あたりの平均アルコール摂取量が純エタノール換算で23g未満の人と比べ、46g以上(日本酒で約2合以上)の人は約40%、69g以上(約3合以上)の人は約60%、がんになるリスクが高いと報告されています[1]

「ある量を超えなければ大丈夫」とも言い切れません。大腸がんでは、約20万人分のデータを解析した結果、純アルコールが15g(ビールなら350mL缶1本程度)増えるごとに、リスクが約10%ずつ高くなると推定されています[3]。少ない量から、飲む量に応じて少しずつリスクが上がっていくのです。さらに、女性は男性より体質的にお酒の影響を受けやすく、より少ない量でリスクが高くなるという報告もあります[1]

しかし、ここで一つ、冷静に受け止めたい点があります。それは「お酒を飲んだら必ずがんになる」という話ではなく、リスクを少しでも下げたい人にとっての目安が、より確かな形に整理された、ということです。お酒を楽しむかどうかは、こうした情報を知った上で、ご自身で選ぶことができます。

見直し②:「男女ともBMI21〜25」が体重の目安に

もう一つの変更が、体重の目安です。

体重の目安には「BMI」が使われます。BMIは太りすぎ・やせすぎを判断する指標で、体重と身長から計算します。

BMIの計算式
BMI = 体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)
(例:身長165cm・体重60kgの場合 → 60 ÷ 1.65 ÷ 1.65 = 約22.0)

今回、推奨される範囲が次のように見直されました。

表2 体重の目安(BMI)の推奨範囲

変更前変更後
男性21〜2721〜25
女性21〜2521〜25(変更なし)

男性のBMIの上限が27から25に引き下げられました[2]。女性はこれまでと同じです。

この変更は、太りすぎとがんの関係が、具体的に示されているためです。BMIが高くなるにつれて、閉経後の乳がんと肝がんのリスクは確実に大腸がんと子宮内膜がんのリスクはほぼ確実に高くなると報告されています[1]。例えば、女性では、BMIが30.0〜39.9(肥満)になると、がんで亡くなるリスクが25%高くなると示されています[1]。「ある一線を越えたら急に危ない」というより、数字が上がるにつれて少しずつリスクも上がっていく、というイメージです。

変わらない4つの柱:たばこ・食生活・身体活動・感染

お酒と体重以外の4つの要素に関する推奨は、これまで通り引き継がれています。

たばこは吸わないこと、そして他人のたばこの煙(受動喫煙)を避けることがすすめられています。喫煙は、現在分かっているがんの要因の中で、男性では最も影響が大きく、女性でも2番目に大きいです[1]

食生活では、3つのポイントが挙げられています。塩分をひかえること(食塩は1日あたり男性7.5g・女性6.5g未満が目標)、野菜と果物をとること(目安は1日に野菜350g以上・果物200g程度)、そして熱い飲み物や食べ物は少し冷ましてからとることです[1]。熱いものをそのまま飲み込むと、食道の粘膜を傷つけ、食道がんのリスクが上がると報告されています。

身体活動については、「今よりも少しでも多く体を動かす」「できることから取り組む」ことがすすめられています。特別、スポーツを行う必要はありません。たとえば、エレベーターより階段を選ぶ、ひと駅手前で降りて歩く、こまめに家事や庭仕事で体を動かす、といった工夫で大丈夫です。体を動かすことが多い人ほどがん全体のリスクが低く、特に大腸がんのリスクはほぼ確実に下がると報告されています[1]

そして「+1」の感染です。これは見落とされがちですが、検査やワクチン、そして薬で具体的に対策できることが多いです。代表的なものとして、次の3つが挙げられます[1]

  • 肝炎ウイルスと肝がん:一度は肝炎ウイルスの検査を受け、感染していれば専門医に相談しましょう。特に、C型肝炎は積極的に治療しましょう。
  • ピロリ菌と胃がん:ピロリ菌に感染していると、胃がんのリスクが高まります。感染しているかどうかは、医療機関で検査を受けて調べられます。感染が分かったら、除菌について医師とよく相談しましょう。除菌で胃がんのリスクが下がることが分かっていますが、ゼロにはならないため、除菌後も定期的に胃がん検診を受けることが大切です[4]
  • HPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)と子宮頸がん:小学校6年〜高校1年相当の女子は、HPVワクチンを公費で接種できます。あわせて子宮頸がん検診も定期的に受けましょう。

この見直しが伝えること

今回のがん予防法「5+1」の見直しは、私たちにとって非常に身近で、今日から取り組むことができる内容です。

ポイントは、「5+1」のどれもが、自分の意思で改善できるということです。お酒との付き合い方を見直す、体重を意識する、たばこをやめる、検査やワクチンを受ける――どれも、専門家に任せきりにするのではなく、自分自身が主役になれる予防法です。

わたしの視点

「お酒を飲まないことがベスト」「BMIの上限が下がった」と聞くと、お酒や食事を楽しみにしてきた方々は、少し窮屈に感じるかもしれません。「そこまで気をつけないといけないのか」と、とまどうかもしれません。しかし、これは「脅し」ではなく、「リスクをできるだけ下げたい人に向けて、信頼できる根拠をもとにまとめた目安」なのだと受け取ることもできます。ゼロか100かではなく、自分の暮らしにどこまで取り入れるかを自分で決められる――そう考えると、少し気持ちが軽くなります。

ここで、こうした目安を日々の暮らしに取り入れるうえで、3つ補足したいと思います。

1つ目は、体重の目安には「下限」もあることです。推奨は「BMI25まで」だけでなく、「21以上」でもあります。21という下限は、思ったより高いと感じる方もいるかもしれません。実は、やせすぎも好ましいことではありません。日本人のデータにおいて、太りすぎでもやせすぎでも、亡くなるリスク(すべての死因)が男女ともに高くなることが示されています。がんによる死亡に限ると、男性はやせすぎの人で特にリスクが高いと報告されています[1]。「やせ(BMI18.5未満)」にあたる人は、男性で4.4%、女性で12.0%(20〜30歳代の女性に限ると20.2%)と報告されています[5]。これは、BMI18.5未満の割合なので、目安の下限である「21未満」まで含めれば、当てはまる人はさらに多いと考えられます。体重は「減らせばいいわけではない」「21〜25の間におさめる」という感覚が大切だと思います。

2つ目は、食生活の整え方です。私は、日々の食事を記録できるアプリを使って管理しています。続けてみて分かったのは、「自分では気をつけているつもりでも、食事内容にクセがある」ということでした。食塩はやや摂りすぎで、反対にビタミンAはもう少し意識して摂ったほうがよい、ということが見えてきました。食べたものが数字やグラフで「見える化」されると、「今日は野菜が少なかったから夕食で足そう」と、自然に修正ができるようになります。まずは自分の現在地を知ることから始めると、食生活を整えやすいと感じています。

3つ目は、感染対策は「一度の行動で有効」な予防だということです。他の要素が毎日の積み重ねを必要とするのに対し、ピロリ菌の検査・除菌や、HPVワクチン・子宮頸がん検診は、「受ける/受けない」を決めて、一度の行動が大きな意味を持ちます。かかりつけの医療機関などで、どんな検査やワクチンが受けられるか、一度尋ねてみてください。また、ご不安なことや気になることがあれば、当サイトのお問い合わせからもお気軽にご相談ください。薬剤師として、お答えできる範囲でお力になれればと思います。

まとめ

  • 国立がん研究センターが、がん予防法「5+1」(たばこ・お酒・食生活・身体活動・体重+感染)を見直した。
  • お酒は「節酒する」から「飲酒をひかえる」へ。日本人男性では、1日2合以上で約40%、3合以上で約60%がんのリスクが上がり、大腸がんでは少ない量でも量に応じて上がることが示されている。
  • 体重は男女ともBMI21〜25が目安に。男性の上限が27から25へ下がった。上限だけでなく「21以上」という下限もあり、やせすぎにも注意が必要。
  • たばこ・食生活・身体活動・感染の推奨はこれまでどおり。感染(肝炎ウイルス・ピロリ菌・HPV)は、検査やワクチン、薬などで対策できることが多い。

ここで紹介したのは、あくまで「がんになるリスクを下げる」ための一般的な生活習慣の目安です。すでに治療を受けている方の食事や生活は、それぞれの状態で異なります。気になることがあれば、主治医や薬剤師、管理栄養士などにご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。今日できる小さな一歩が、これからの自分を守る一歩につながります。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス. 科学的根拠に基づくがん予防法(更新・確認日:2026年4月1日). https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
  2. 国立がん研究センター. 「科学的根拠に基づくがん予防法5+1」をより伝わりやすく刷新 お酒と体重のがんリスク上昇に伴い予防法も変更 飲酒は「節酒」から「ひかえる」、男性BMIの推奨上限は25へ. プレスリリース. 2026年6月3日. https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2026/0603/index.html
  3. 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト. 飲酒と大腸がんリスク(日本のコホート研究のプール解析). https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/793.html
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス. 胃がん 予防・検診(更新・確認日:2026年1月13日). https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/prevention_screening.html
  5. 厚生労働省. 令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要(肥満及びやせの状況). https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf

※ 本記事は、信頼できる一次情報源に基づき、医学・薬学の視点から解説したものです。実際の治療や薬の使用については、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。

執筆:Miyarun(薬剤師・医学修士)
Medical Compass 〜最新治療と健康のナビゲーター〜