はじめに

「手術のあと、仕事は続けられるのだろうか」。胃がんや食道がんと診断されたとき、治療のことと同じくらい、この心配が頭をよぎる人は多いのではないでしょうか。

がんと診断されても、できることなら仕事は続けたい。そう考える人は多いのではないかと思います。では、実際にどれくらいの人が、どのくらいの期間で仕事に戻っているのでしょうか。

2026年、日本の9つの医療機関が、胃がん・食道がんの手術を受けた人の仕事の状況を、手術前から1年半にわたって調べた研究を報告しました。今回は、その内容をお伝えします。

結論:手術を受けた人の約8割が、1年半後も働いていた

胃がんや食道がんと診断されたときに働いていた158人のうち、手術から18か月後の時点で働いていたのは124人(78.5%、95%信頼区間72.0〜85.0%)だった。

初めて復職するまでの日数は、胃がんで30日、食道がんで70日だった(いずれも中央値)。

18か月後に働いていないことと関連していたのは、手術のときの年齢が65歳以上であること、がんの進行度(病理病期III以上)、そして術後6か月の時点での食欲低下・体重減少・病気や治療による経済的な困りごとだった。

図1 胃がん・食道がんの手術から18か月後に働いていた人の割合(オリジナル作成)

研究のアプローチ――手術前と術後6か月・12か月・18か月に、仕事の状況を確認した

この研究は、8つの市中病院と1つの大学病院が参加した、多施設共同の前向きコホート研究です。「前向き」とは、あらかじめ調べる項目を決めておき、その上で手術後の経過を記録していく進め方をいいます。

対象になったのは、2022年9月から2024年3月の間に、胃がんまたは食道がんに対して根治を目指す手術を受ける予定だった20歳以上の人のうち、診断された時点で働いていた人です。最終的に158人が解析の対象になりました。内訳は胃がん111人、食道がん47人です。

参加者は、手術前と、手術から6か月・12か月・18か月後の外来で、あわせて4回、自分で記入する質問票に回答しました。項目には、働いているかどうか、雇用の形態、退職の経験に加えて、生活の質を測る国際的な質問票(EORTC QLQ-C30)も含まれていました。

ここで言う「働いている」の定義は、それぞれの調査時点で、直前の1週間に1時間以上働いたことです。

対象者の年齢の中央値は65.5歳(範囲:37〜84歳)で、158人のうち152人(96.2%)でがんを取りきる切除(R0切除)が行われました。90%を超える人が、体への負担の少ない手術(低侵襲手術)を受けています。雇用形態は、自営業が55人(34.8%)、正規雇用が54人(34.2%)、非正規雇用が49人(31.0%)でした。

手術から18か月後、78.5%の人が働いていた

主要な評価項目である「手術から18か月後に働いていた人の割合」は、78.5%(158人中124人、95%信頼区間72.0〜85.0%)でした[1]。がん種別にみると、胃がんでは111人中90人(81.1%)、食道がんでは47人中34人(72.3%)でした。

ここで、2つの注意点があります。

一つは、母数が「診断されたときに働いていた人」であることです。もともと働いていなかった人は含まれていません。

もう一つは、この集計が保守的な数え方をしていることです。18か月まで調査を続けられなかった人は、理由を問わず、すべて「働いていない」ものとして数えられています。調査を続けられた人だけで計算すれば割合はもっと高くなりますが、それでは見通しを甘く見積もってしまう可能性があるため、あえて厳しい数え方をしています。

初めて復職するまでの日数は、胃がんで30日、食道がんで70日だった

初めて復職するまでの日数は、胃がんで30日、食道がんで70日でした(いずれも中央値)。ただし、人によって幅があり、四分位範囲(中央の半数の人)をみると、胃がんでは18〜69日、食道がんでは38〜143日でした。加えて、調査期間中に一度でも復職した人は、胃がんで99人(89.2%)、食道がんで43人(91.5%)でした。

食道がんの手術は胃がんの手術に比べて体への負担が大きく、入院期間が長く、術後の合併症も多い傾向があります。この研究でも、術後合併症は胃がんで111人中18人(16.2%)であるのに対し、食道がんでは47人中27人(57.4%)でした。復職までの日数の違いには、こうした背景があると考えられます。

働いていないことと関連していたのは、年齢・がんの進行度と、術後6か月の状態

18か月後に働いていないことと関連していた要因を調べた解析では、手術のときの年齢が65歳以上であること(リスク比2.18、95%信頼区間1.14〜4.16)と、がんの進行度が病理病期III以上であること(リスク比3.57、95%信頼区間1.94〜6.57)が示されました[1]

ただし、年齢については、研究者らは慎重な見方をしています。65歳以上で働いていない人のなかには、がんや治療のために働けなくなった人だけでなく、定年退職や年齢に応じた引退も含まれるためです。

この研究には、もう一つの特徴があります。これまでの復職に関する研究では調べられていなかった、術後6か月の時点での症状・体重の変化・経済的な困りごとに注目している点です。

表1 術後6か月の状態と、18か月後に働いていないことの関連

術後6か月の状態リスク比(95%信頼区間)p値
痛みがある2.08(1.04〜4.15)0.04
食欲低下がある2.04(1.10〜3.77)0.02
病気や治療による経済的な困りごとがある2.09(1.09〜4.01)0.03
体重が10%以上減っている2.02(1.09〜3.76)0.03

※ リスク比は、手術前の状態・性別・年齢(65歳以上かどうか)で調整した値です。1より大きいほど、18か月後に働いていない人の割合が高いことを示します。なお、痛みについては、計算の仕方を変えると関連がはっきりしなくなりました。

一方で、倦怠感、吐き気・嘔吐、睡眠の問題、息苦しさ、便秘、下痢については、統計的にはっきりした関連は示されませんでした。これは「関連がない」と証明されたという意味ではなく、今回の研究では差として検出できなかったということです。

この研究が伝えること

① 手術を受けたあとも、多くの人が働くことができている

胃がん・食道がんの手術を受けた人の約8割が、1年半後も働いていました。しかも、これは18か月後まで調査を続けられなかった人をすべて「働いていない」として数えた、厳しめの集計での結果です。

② 胃がんでは、復職までの日数がより短かった

初めて復職するまでの日数は、胃がんで中央値30日、食道がんで70日でした。手術による体への負担が小さい分、胃がんのほうが早く仕事に戻れていたと考えられます。

食道がんは胃がんに比べて復職まで日数がかかりますが、調査期間中に一度でも復職した人は91.5%でした(胃がんは89.2%)。時間はかかっても、多くの人が仕事に戻っています。

わたしの視点

今回は、皆さんにお伝えしたいことが3つあります。

1つ目は、術後の食欲と体重についてです。この2つは、いずれも18か月後に働いていないことと関連していました。

胃や食道の手術のあとは、一度に食べられる量が減ることがあります。これは、手術で消化管の形が変わったことによるものです。無理に食べようとする必要はありませんが、一度の量を減らして回数を増やす、食べられるものから食べる、といった対処法がありますし、吐き気や下痢などの症状に対して使えるお薬もあります。栄養補助食品という選択肢もあります。

ここでお伝えしたいのは、食事の困りごとは医療者に相談しましょうということです。体重がどれくらい変わったか、一度にどのくらい食べられるか。それを伝えていただければ、医療者が対策を立てることができます。

2つ目は、仕事の相談先についてです。まず確かめていただきたいのは、自分の職場にどんな制度があるかです。職場によっては、1日の労働時間を短くする短時間勤務、時間単位で取得できる有給休暇、時差出勤、テレワーク、休職から復職までをならすリハビリ出勤といった制度が設けられていることがあります[2]。労働者が10人以上の職場では就業規則の作成と周知が義務づけられているので、人事・総務の担当者に聞いてみるとよいと思います[2]

話が変わりますが、この研究の対象者は6割が従業員50人以下の職場で働いていました。働く人の健康について助言する産業医を置く義務があるのは、常時50人以上の労働者がいる事業場で、50人未満の職場では義務ではありません[3]。これは、体調を踏まえて働き方を考えたいときに、職場のなかに相談できる専門職がいるとは限らないということを意味します。

そうしたときに利用できるのが、全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」です。ご本人だけでなくご家族も、その病院に通っていなくても、会社員でも自営業でも、無料・匿名で相談できます[4]。一人で抱え込まず、こうした窓口をぜひ活用していただければと思います。

3つ目は、がんを早期発見することの重要性です。この研究で、18か月後に働いていない割合が高かった要因の1つは、がんが進んだ段階(病理病期III以上)で手術を受けたことでした。これらの人の46.7%が18か月後に働いておらず、病理病期III未満の11.5%と大きな開きがあります。初めて復職するまでの日数も長くなっていました[1]

この研究が示したのは、手術を受けた時点でがんが進んでいた人ほど、その後の就労が難しかったということです。がんを早期発見できれば仕事に戻りやすくなる、というところまでを確かめた研究ではありませんが、がんの進み具合が仕事にも関わっていたことを踏まえると、早期発見・早期治療は、命を守るためだけでなく、その後の暮らしを守るという意味でも大切だと私は考えます。検診や、気になる症状があるときの受診を、後回しにしないでいただければと思います。

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まとめ

  • 日本の9施設が、胃がん・食道がんの根治を目指す手術を受けた158人を手術前から手術の18か月後まで調査したところ、18か月後に働いていたのは124人(78.5%)だった。
  • 初めて復職するまでの日数は中央値で胃がん30日・食道がん70日で、人による幅も大きかった。調査期間中に一度でも復職した人は、胃がん89.2%・食道がん91.5%だった。
  • 18か月後に働いていないことと関連していたのは、手術のときの年齢が65歳以上であること、病理病期III以上、そして術後6か月時点の食欲低下・体重減少・病気や治療による経済的な困りごとだった。
  • この研究が示したのは関連であり、原因と結果を確かめたものではない。それでも、手術のあとも多くの人が働いていること、職場の制度やがん相談支援センターという相談先があることは、手術の前から知っておく価値がある。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。手術を受けたあとも多くの方が仕事を続けていることを、これから同じ手術を受けられる方に知っていただき、前向きに治療に臨んでいただければ幸いです。

参考文献

  1. Goto K, Hisamori S, Ueno K, et al. Return-to-work and working status after surgery for gastric and esophageal cancer: a prospective observational study. Ann Gastroenterol Surg. 2026. doi:10.1002/ags3.70251
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス. がんと仕事:働き方を考える(更新・確認日:2026年6月2日). https://ganjoho.jp/public/support/work_care/index.html
  3. 厚生労働省. 労働安全衛生法に規定する産業医制度(2026年8月4日閲覧). https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001149017.pdf
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス. 「がん相談支援センター」とは(更新・確認日:2022年11月7日). https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html

※ 本記事は、信頼できる一次情報源に基づき、医学・薬学の視点から解説したものです。実際の治療については、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。

執筆:Miyarun(薬剤師・医学修士)
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