はじめに

BCG(ビーシージー)による治療を受けてこられて、「がんが残っている」「また出てきた」と医師に言われた。これは、膀胱がんの治療のなかで辛い知らせです。

しかし、2026年8月24日、この知らせを受けた患者さんに向けた新しい治療薬が承認されました。イネレクスゾ®膀胱内システム225mg(一般名:ゲムシタビン塩酸塩)です[1]。抗がん薬を含んだ器具を膀胱の中に3週間入れたままにして、薬を少しずつ出し続ける、これまでとは違うかたちの製剤です。今回は、この薬について、誰が対象になり、どのような効果が確認されているのかをお伝えします。

結論:BCG治療のあとに上皮内がんが残った・再発した場合の選択肢が、もう一つ増えた

対象——効能・効果は「BCG膀胱内注入療法後に残存・再発した上皮内癌を有する高リスク筋層非浸潤性膀胱癌」です[1]。膀胱がんの中でも、この条件にあてはまる患者さんが対象になります。

治療——ゲムシタビンを含んだ器具を膀胱に3週間留置します。最初の6か月間は3週間ごと、その後の18か月間は12週間ごとです[1]。

効果——比較する群を置かない単群の試験で、85人のうち70人(82.4%)が、いずれかの時点で完全奏効に達しました。しかし、12か月の時点での完全奏効率は45.9%でした[2]。

イネレクスゾとは何か――膀胱内に3週間留置して、抗がん薬を持続的に放出する製剤

有効成分のゲムシタビンは、以前から使用されてきた抗がん薬です。膀胱の中に注入する方法についても、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)での有効性が示されてきました[2]。

新しくなったのは、投与の方法です。これまでの膀胱内注入療法は、尿道からカテーテルで薬を注ぎ入れ、しばらくためてから排尿するものでした。ゲムシタビンでは、膀胱にとどまる時間の短さが効果の限界になりうると考えられてきました[2]。

イネレクスゾは、ゲムシタビンを含んだチューブ状の製剤です。膀胱に入れると、水が浸透圧でチューブに流れ込み、中の錠剤が少しずつ溶けて、薬が3週間かけて尿の中へ放出されます[3]。本剤には金属が含まれるため、留置中のMRI検査には注意が必要です[4]。

図1 イネレクスゾのしくみ(オリジナル作成)

誰が対象になるのか

添付文書に記載されている効能・効果は、次のとおりです。

BCG膀胱内注入療法後に残存・再発した上皮内癌を有する高リスク筋層非浸潤性膀胱癌

筋層非浸潤性膀胱がんは、がんが膀胱の壁の筋肉の層まで達していない段階のもので、高リスク群は「T1、高異型度、CIS(併発CISを含む)のいずれかを含むもの」とされています[5]。上皮内癌(CIS)は膀胱の粘膜に平らに広がるタイプで、見つけにくく、進行しやすいものを言います。

すべての膀胱がんの方に使える薬ではなく、BCG治療のあとに上皮内がんが残った、あるいは再発した方に限られます。

なお、臨床試験の対象は「BCG不応性」の方で、承認された効能・効果とは全く同じというわけではありません[1]。

膀胱全摘除術との関係

日本泌尿器科学会の膀胱癌診療ガイドライン2019年版[増補版]では、BCG治療後に再発した上皮内癌について「膀胱全摘除術を考慮することが推奨される(推奨の強さ2,エビデンスの確実性C)」としています[6]。膀胱全摘除術は、膀胱と周囲の臓器を摘出し、尿の通り道をつくり直す治療です[5]。体への影響は小さくありませんが、この状況の下では確立した治療法です。また、添付文書にも次のように書かれています。

膀胱全摘除術が可能な場合には、本剤の投与の必要性について慎重に判断すること

つまり、今回の承認は、膀胱全摘除術に取って代わるものではなく、膀胱を残すことを望む方に選択肢が一つ加わった、という位置づけです。

研究のアプローチ:SunRISe-1試験

承認の根拠になったのは、国際共同第Ⅱb相のSunRISe-1試験(BLC2001試験)のコホート2です[1]。試験の内容を先に整理しておきます。

  • 国際共同・非盲検試験:日本を含む複数の国の施設が参加し、患者さんも医師も、どのような治療を受けているかを知ったうえで行われました
  • 非対照・単群:比較する群を置いていません。 イネレクスゾを使った群と使わなかった群を比べた試験ではありません
  • 対象85例、うち日本人2例:膀胱全摘除術の適応がない、または膀胱全摘除術が選択されなかった、BCG不応性の上皮内癌を有する高リスクNMIBCの方です。白人が74例(87.1%)、アジア系が8例(9.4%)で、そのうち日本人が2例でした[2]
  • 主要評価項目は完全奏効率

比べる群がない試験では、「使わなかったらどうだったか」が分からないという点に注意が必要です。

研究で分かったこと、まだ分かっていないこと

有効性

完全奏効とは、評価の時点でがんが確認されなくなったことを意味します[7]。その割合は、85人中70人で82.4%(95%信頼区間 72.6〜89.8)でした。しかし、ここで注意が必要なのは、これが「いずれかの時点で、一度でも完全奏効に達した人の割合」だということです。時系列に見ると、3か月の時点で78.8%、6か月で58.8%、12か月で45.9%でした(いずれもKaplan-Meier法による推定)[2]。

図2 イネレクスゾの有効性(オリジナル作成)

つまり、「8割以上の人でがんがなくなり、そのままになる」という結果ではありません。 一度消えても再発することがあり、治療後も定期的な検査が必要になります。なお、完全奏効が続いた期間の中央値は25.8か月、12か月の時点で86.6%の方が膀胱全摘除術を受けずにいました[2]。これは、「膀胱全摘除術をまだ受けずにいた方の割合」で、「がんがなくなって膀胱を残せた人の割合」ではないことにも留意する必要があります。

副作用

85例中71例(83.5%)に副作用が認められました。重大な副作用は尿路感染(21.2%)です。熱が出た、排尿時に痛みがあるといった症状があるときは、我慢せず担当医に連絡するよう勧められています[4]。そのほか、10%以上に認められたのは、次のとおりです[1]。

副作用発現割合
頻尿43.5%
排尿困難40.0%
尿意切迫24.7%
血尿16.5%
尿路痛10.6%

程度の重いもの(グレード3以上)は11人(12.9%)、治療に関連した死亡はありませんでした[2]。「副作用が少ない」と言えるものではなく、場合によっては器具を抜去して中断する必要があります。なお、先ほどの尿路感染の21.2%は、程度の軽いものも含めた割合です[1]。重症化することがあるため、「重大な副作用」として記載されています。

まだ分かっていないこと

  • 効果がどのくらい続くのか。 奏効した方の観察期間は中央値20.2か月で、長期の有効性と安全性について確かな結論を出すには早いと研究チームは述べています[2]
  • 日本人にどの程度あてはまるのか。 85例のうち日本人は2例で、日本人をピックアップして有効性や安全性を確かめることは困難です。2例では、偶然の結果による影響を大きく受けるためです
  • 承認された条件以外での有効性と安全性はどうか。 BCG膀胱内注入療法の再導入が適応となる患者や、他の抗悪性腫瘍剤と併用した場合については、確立していません[1]

治療の方法や通院などについて

イネレクスゾによる治療は通院で行うことができます。挿入するときは尿道からカテーテル、抜去するときは膀胱鏡を使い、日帰りで受けられるとされています[4]。最初の6か月間は3週間ごとに入れ替えるため、この期間は膀胱の中に本剤が入っている状態が続きます。その後の18か月間は、3週間留置して取り出し、その後9週間は空ける、という流れです[1]。

留置中は、十分な水分をとること(1日約1.5Lが目安)と、患者カードを常に携帯することが勧められています。一方で、入浴や外出には制限はありません[4]。

いつから、いくらで受けられるのか(2026年9月25日時点)

2026年9月25日の時点で、イネレクスゾは薬価基準に収載されていません[3]。公的医療保険で受けられるようになるのはこれからになります。

エドスチラドリンとの違い

2026年5月には、同じくBCG治療後の高リスクNMIBCを対象とするエドスチラドリン膀胱内注入液(ナドファラゲン フィラデノベク)が承認されています[8]。今回のイネレクスゾと比較してみましょう。

項目エドスチラドリンイネレクスゾ
製品の区分再生医療等製品(遺伝子治療用製品)医薬品(代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤)
対象となる方BCG治療後に残存・再発した上皮内癌を有する高リスクNMIBC。ただしBCG再導入の適応とならない患者に限るBCG治療後に残存・再発した上皮内癌を有する高リスクNMIBC
しくみウイルスでインターフェロンα-2bの遺伝子を運び、膀胱の細胞にそのタンパク質をつくらせるゲムシタビンを含む器具を留置し、3週間かけて尿の中へ放出する
投与のしかた1回75mLを膀胱内に注入する1ユニットを膀胱内に留置し、3週間後に膀胱鏡で取り出す
通院・投与の間隔3か月に1回最初の6か月は3週間ごと、その後の18か月は12週間ごと

しくみや通院の間隔などが違うことが分かります。 また、エドスチラドリンは「BCG膀胱内注入療法の再導入の適応とならない患者に限る」とされており[9]、もう一度BCGを行うことが適応となる方は対象になりません。

なお、有効性については、この表には入れていません。 二つは別々の試験で行われたものであり、患者さんの背景も評価のしかたも異なり、優劣を判断することはできません。

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この承認が伝えること

① BCG治療のあとに膀胱温存をめざす選択肢が、もう一つ加わった。 2026年5月にエドスチラドリンが承認され、今回それにイネレクスゾが加わりました。

② 膀胱全摘除術の位置づけは変わっていない。 ガイドラインでは現在も膀胱全摘除術を考慮することが推奨され[6]、イネレクスゾの添付文書にも、それが可能な場合は投与の必要性を慎重に判断するよう記載されています[1]。

③ まだ分かっていないことも多い。 承認の根拠になったのは、比べる群を置かない85人の試験です。そのうち日本人はわずか2例で、長期の成績も明らかになっていません。

わたしの視点

新しい成分でなくても――薬は「形」で変わる

ゲムシタビンの膀胱内注入は、以前から研究が行われてきました。しかし、効果が限定的であるとされてきた理由の一つは、ゲムシタビンを膀胱に長時間作用させることができないというものでした。日本で一般的に使用されて来なかった背景には、この課題があったのではないかと思います。イネレクスゾは、この問題を解決した製剤と言えます。

新薬というと、これまでには無かった成分をイメージします。ただ、薬は成分だけでその効果が決まるものではありません。どこに、どれだけの時間とどまるかによって、同じ成分でも効果は変わることがあります。イネレクスゾの有効成分は以前からあるゲムシタビンで、新しいのは「薬としての形」です。膀胱のように中身が入れ替わり続ける場所では、形の工夫が効き方を左右しうる。新しい成分の薬でなくても、新たな治療薬に結びつけることができるということを、イネレクスゾは示しています。

日本人は85例中2例――それでも承認された意味

試験に参加した85人のうち、日本人はわずか2人です。「それで承認になるのか」と感じる方もいらっしゃると思います。まず押さえておきたいのは、これが国際共同試験だということです。日本の施設も参加し、日本人を含めたデータが一つの試験として集められています。そのうえで、承認条件として医薬品リスク管理計画の実施が定められ、販売開始から6か月間の市販直後調査を行うこととされています[10]。使われ始めてからの情報を集めるという条件が、承認とセットになっているということです。

つまり、日本人が2例であっても承認に至ったのは、85人という規模ではあっても、人に使用したときの有効性と安全性が確認されたからだと考えられます。残る最も大きな課題の一つは、多くの日本人でも同じような結果が得られるのか、という点です。これから実際に使われていく中で分かってくる部分だと思いますし、国際共同試験のような結果が積み上がっていくことを期待しています。

治療は「効果」だけでは決められない

エドスチラドリンは、3か月に1回の投与です。イネレクスゾは、最初の6か月間が3週間間隔で最大8回、その後の18か月間が12週間間隔で最大6回、あわせて2年間の予定が組まれています。はじめの半年を見ると、前者は2回、後者は最大8回。イネレクスゾは、そのあとも1年半、留置と抜去のために通うことになります。一方、エドスチラドリンは、治療全体の期間や回数が定められておらず、臨床試験では最長5年間、3か月間隔で投与が続けられました[11]。

効果と同じくらい気にかかるのが、これらを続けられるかどうかです。3か月に1回の通院と、3週間ごとの通院とでは、生活の質に差が出る可能性があります。イネレクスゾでは、最初の半年は器具が膀胱に入ったまま過ごす日々が続きます。仕事の都合、病院までの距離、体の負担。治療が続けられそうか否かは、治療を選ぶときの大きな基準になると考えられます。

まとめ

  • 2026年8月24日、イネレクスゾ®膀胱内システム225mg(ゲムシタビン塩酸塩)が、BCG治療後に残存・再発した上皮内癌を有する高リスク筋層非浸潤性膀胱癌を対象に承認された。
  • ゲムシタビンの膀胱内注入は、筋層非浸潤性膀胱がんでの有効性が示されてきた方法で、イネレクスゾは、ゲムシタビンを3週間かけて尿の中へ放出する製剤である。最初の6か月間は3週間ごと、その後の18か月間は12週間ごとで、あわせて2年間の治療スケジュールである。また、通院で治療を受けられるとされている。
  • 承認の根拠は、比較対照を置かない単群の国際共同第Ⅱb相試験で、85例中、日本人は2例。完全奏効率82.4%は「いずれかの時点で完全奏効に達した割合」で、12か月の時点では45.9%。
  • 上述の患者さんにおいて、膀胱全摘除術は確立した治療であるが、イネレクスゾの承認により、膀胱を残す選択肢が一つ加わった。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。今回のお話が、あなたにとって最適な治療に繋がれば幸いです。

参考文献

  1. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. イネレクスゾ®膀胱内システム225mg 添付文書(2026年8月作成 第1版)および同製品情報ページ. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/42917A1
  2. Daneshmand S, Van der Heijden MS, Jacob JM, et al. TAR-200 for Bacillus Calmette-Guérin-Unresponsive High-Risk Non-Muscle-Invasive Bladder Cancer: Results From the Phase IIb SunRISe-1 Study. J Clin Oncol. 2025;43:3578-3588. doi:10.1200/JCO-25-01651
  3. ヤンセンファーマ株式会社. イネレクスゾ®膀胱内システム225mg 適正使用ガイド(2026年8月作成 第1版). https://www.pmda.go.jp/RMP/www/800155/db21805e-9937-4357-92e6-4ae1ace8425b/800155_42917A1X1020_02_001RMPm.pdf
  4. ヤンセンファーマ株式会社. イネレクスゾ®で治療する患者さんとご家族の方へ(2026年8月作成). https://www.pmda.go.jp/RMP/www/800155/db21805e-9937-4357-92e6-4ae1ace8425b/800155_42917A1X1020_01_001RMPm.pdf
  5. 国立がん研究センター がん情報サービス. 膀胱がん 治療(更新・確認日:2024年6月28日). https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/treatment.html
  6. 日本泌尿器科学会編. 膀胱癌診療ガイドライン 2019年版[増補版]. 2023年8月. https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/39_bladder_cancer_2019_v2.pdf
  7. ヤンセンファーマ株式会社(Johnson & Johnson). イネレクスゾ承認。BCG不応の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん治療を変える新たな選択肢. プレスリリース. 2026年8月24日. https://kyodonewsprwire.jp/release/202608214532
  8. フェリング・ファーマ株式会社. エドスチラドリン®膀胱内注入液(ナドファラゲン フィラデノベク)の日本における製造販売承認を取得、BCG治療後の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん患者さんに、膀胱温存という新たな選択肢を提供. プレスリリース. 2026年5月11日. https://www.ferring.co.jp/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%80%81%E3%82%A8%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%B3%E8%86%80%E8%83%B1/
  9. 中央社会保険医療協議会 総会 資料(総-10). 再生医療等製品の取扱いについて(エドスチラドリン). 令和8年5月13日. https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699532.pdf
  10. ヤンセンファーマ株式会社. イネレクスゾ®膀胱内システム225mgに係る医薬品リスク管理計画書(令和8年8月25日提出). https://www.pmda.go.jp/RMP/www/800155/db21805e-9937-4357-92e6-4ae1ace8425b/800155_42917A1X1020_001RMP.pdf
  11. フェリング・ファーマ株式会社. エドスチラドリン®膀胱内注入液(ナドファラゲン フィラデノベク)添付文書(2026年7月改訂 第2版). https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00072088.pdf

※ 本記事は、信頼できる一次情報源に基づき、医学・薬学の視点から解説したものです。実際の治療については、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。

執筆:Miyarun(薬剤師・医学修士)
Medical Compass 〜最新治療と健康のナビゲーター〜